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サステナビリティ・CSR広報

英国現代奴隷法、日本企業はどう対応するべきか

Sustainavision Ltd.代表取締役
下田屋 毅

掲載日:2016年8月8日

英国で、2015年3月に、現代の奴隷制を防止する法律である「Modern Slavery Act 2015 (現代奴隷法)」が、制定された。この法案は企業に、サプライチェーン上の奴隷制を特定し、根絶するための手順の報告を求めるものだ。現代の奴隷制という言葉を聞いて「奴隷なんて過去のことで、自分には全然関係のない話」と感じている人が大半ではないだろうか?

しかしながら、英国では現代に奴隷制度が存在しているとされ、人身取引、強制労働、性的搾取等は大きな社会問題として認識しており、これに対応する形で、デイビッド・キャメロン首相が、「現代の奴隷制の根絶において、英国が世界をリード」することを表明、法案成立に向けて動き、世界で初めて現代奴隷制を規制する法律として制定されたのである。

既にこの法令に則って行動が起こされているが、英国企業の状況を踏まえて日本企業がどのように対応していけばよいのかを以下お伝えしたい。

01世界の奴隷労働の実態

世界において現代の奴隷労働を含む強制労働の実態はどのようになっているのだろうか。 国際労働機関(ILO)の推定によると、全世界で2100万人*1が、強制労働、人身取引、借金のかたによる労働など、奴隷のような環境で働いているとされている。被害者の90%(1870万人)は民間経済、即ち企業活動により搾取されており、そのうちの68%(1420万人)は、農業、建設業、家内労働、製造業におけるものだ。そしてこれら企業は、強制労働からの搾取により年間1500億ドルの不法利益をあげているとされている。

今回法制化した英国内においては、英国内務省は、2013 年時点で約1 万 3000 人が奴隷状態に置かれていると見積もっている。英国では、BBCなどのメディアも取り上げてこの現代の奴隷制について社会問題として認識している。

英国には東欧諸国などから、良い仕事があると騙されて連れて来られ、奴隷労働をさせられている人が多数いるとされている。これらの人々は最初の話と違う職業に就かされ、当該の東欧の国からの交通費や会社の寮費などに関して借金を背負わされ、パスポートなどの身分証明書を取り上げられ、会社の寮にて脅迫されながら、ほぼ逃げられない状況で、工場などで働かされている。*2

事例としては、リトアニアの男性が、英国で週350ポンドの収入と住宅付きの良い仕事があると話をされ英国にやって来たら、話とは違う仕事(放し飼いの鶏を捕まえる仕事)で、斡旋業者(人身取引業者)には、仕事紹介料とリトアニアからのバス代、そして割り当てられた汚く狭い部屋の家賃を請求され、あっという間に借金を抱えた。また暴力や脅しを受け、たびたび賃金の未払いで飢えに苦しむこともあった。これらの現代の奴隷労働者が取り扱った鶏肉は、英国全土の大手企業やスーパーマーケットに卸されていたという。

また英紙ガーディアンの調査*3では、2014年6月のタイの漁船での奴隷制が取り上げられ報道されている。これは欧米の大手スーパーマーケットのサプライチェーン上で発生しており、その奴隷労働が行われていた漁船が捕獲したエビが店頭で販売されていたことが発覚し消費者に衝撃を与えた。これら労働者はタイの近隣国であるミャンマーやカンボジアから人身取引業者に良い仕事があると騙されて連れてこられ、無報酬の上、漁船上では食料もろくに与えられず、殴打、拷問、そして処刑されることもあるなど、奴隷のように扱われていたことが労働者の証言から明らかになっている。

米国カリフォルニア州で、米国の小売業者(コストコ)に対して、タイのサプライヤー(CPフーズ)が製造したエビの販売差し止め命令を求めて法的要求が提出された。コストコとCPフーズは、エビのサプライチェーンでの奴隷労働の疑いで訴訟問題に直面している。この訴訟は、ラベルに「奴隷労働に汚染された製品」と表示しないかぎり販売をすることができないよう求めている。

マレーシアのエレクトロニクス産業で行なわれた調査によると、奴隷労働に相当する状況が見つかった。仕事の仲介業者を通して海外の仕事を得た労働者は、その仲介業者に借金を作ることになり、パスポートや身分証明書を取り上げられ、低賃金の職から抜け出せなくなり、自分の国に帰ることも出来ない状況でいる。

またFIFAサッカー・ワールドカップの開催を2022年に控えたカタールでは、建設現場での外国人出稼ぎ労働者の人権侵害、女性の家事労働者の強制労働・人身取引、肉体・性的な暴力などの虐待が報告されている。このような現代の奴隷労働によって準備が行われているワールドカップ・カタール大会のスポンサーは、既に非難にさらされるなど関係する企業への風当たりは強くなっている。

実は日本でも現代の奴隷制があると指摘されている。オーストラリアの国際人権NGOウォーク・フリー財団の2016年の報告書では、日本では29万人が現代の奴隷制下にあると見積もっている*4。また、米国務省の2016年人身取引の実態をめぐる報告書*5では、日本は、強制労働、性的搾取の人身取引の被害者の供給・通過国であるとされ、また「外国人技能実習制度」についても指摘されており、この制度が特に現代の奴隷制度を助長するものとして国際社会から見られている。東京オリンピック・パラリンピックを4年後の2020年に控え、建設準備等の労働力不足を、東南アジアの国々からこの制度の活用により労働力を補う計画がなされており、これら労働者を適正な形で雇用する制度となるのか国際的に注目されている。

Profile

Sustainavision Ltd.代表取締役 下田屋 毅
在ロンドンCSRコンサルタント。大手重工会社の工場管理部にて人事・総務・労務・教育・安全衛生などに携わった後、環境ビジネス会社の立上に参画。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本のCSRの懸け橋となるべくCSRのコンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。

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