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サステナビリティ・CSR広報

サステナビリティ経営のカギは、
多様性(ダイバーシティ)コラボレーション

北海道大学 産学・地域協働推進機構 特任講師
椎名 希美

掲載日:2021年11月30日

01サステナビリティ経営における情勢変化
~「事業を通じた社会課題解決」の実践が求められる背景~

知識社会の到来

昨今、ビジネス界隈で良く耳にする言葉にVUCA(ヴーカ)が挙げられます。VUCAは、ビジネス環境や市場、組織、個人などあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難になっている状況を意味する造語のことで、「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」という4つの単語の頭文字を組み合わせています。急速なIT技術の進展、価値観の変化、気候変動や新型コロナウイルスに代表されるような見通しを立てることが困難な状況にあり、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化していると言えます。産業構造も変化しており、18世紀~19世紀中頃は大量生産がメインとなる産業社会を迎えましたが、19世紀後半~20世紀にかけてはITが身近なものに変わりデータを取り扱うことがメインの情報社会を迎えました。そして、21世紀はP.F.ドラッカー(1993)『ポスト資本主義社会』でも述べられているように、知識が最大の資源となる知識社会を迎えていると言われています。ドラッカーは知識を「成果を生むための手段」として捉え、頭の中で考えるだけではなく、行動に繋がり価値を創造し得る知識のことと指摘しています。リベラルアーツと呼ばれるような生きた知識が教養として求められる背景でもあります。21世紀は、高度化した専門的な知識と他の知識とを連携させ、取り込み、組み合わせることで爆発的なパフォーマンスを上げる創造とコラボレーションの時代であるとも言えるでしょう。

さらに、産業構造に加えて、消費価値観も変化を迎えています。内閣府の行った「消費者行政の推進に関する世論調査」を見ても分かるように、かつての“持っていなくて不便だから買う”“流行っているから買う”“モノ自体が欲しくて買う”という1970~80年代のいわゆるモノ消費(have)の時代から、1990~2010年はSNS(Social networking service)が発達したことで“体験したくて買う”“特別な思い出が欲しくて買う”という、いわゆる体験をシェアすることが重要視されるコト消費(do)の時代を迎え、現在は健康維持、環境保全やライフスタイルの表現など“心の豊かさを求めて買う”、クラウドファンディングのように“他者を支援したいから買う”などのイミ消費(be)へと変遷しています。SDGsやサステナビリティはもはや当たり前の価値観として、消費行動にも反映されてきていると言えるでしょう。

このように、VUCAの時代において、先の読めない変化の中で、役に立つものよりも“意味のあるもの”が求められています。誰も「正解」がわからない世界が到来しているからこそ、組織においても正解を見つけられる能力より“問題そのものを見つける”“意味を創り出す能力”が必要とされています。このような潮流を受け、サステナビリティ経営は現在3つの視点から求められていると考えられます。

消費者が求めるサステナビリティ経営

サステナビリティ経営が求められる一番の要因は、やはり消費者の声でしょう。先にも述べたように消費の価値観は変化していると言えます。最近では、消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮し、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うエシカル消費(倫理的消費)やフェアトレードという言葉をスーパーの店頭などで見かける機会も増えてきました。さらに、D2C(Direct To Consumer)の販売形態が人気を博している背景にもやはり消費者がサステナビリティ経営を求めている声が聞こえてきます。D2Cは、中間業者を飛ばして消費者へ直接販売するある種のBtoCのことを指します。明確なライフスタイル(世界観)を打ち出し、顧客をコミュニティであり仲間と捉え、デジタルを活用してストーリーと共にプロダクトを届けるところに特徴があります。消費者に直接働きかけて販売できることから、自社が伝えたいメッセージングも薄まったり、曲げられたりせずに伝えることができ、1人1人のニーズの把握や中間業者に左右されないプロモーションが可能となります。ただ商品を売るのではなく、商品に付帯するストーリーやコンテキストを伝え、共感を呼ぶことが可能となります。有名なところでは、スニーカーを中心としたアパレルブランドのAllbirds(オールバーズ)が挙げられます。Allbirdsでは、天然由来のサステナブルな素材を使い、快適な履き心地とシンプルなデザインのスニーカーを販売しています。現在は北米やヨーロッパ、中国、日本など35か国以上でECサイトを展開しているほか、欧米やアジアなどの主要都市で直営店を合計22店舗運営しています(2021年2月末時点)。スニーカーの販売実績は創業から2年間で100万足、顧客数は2年半で100万人を超え、これまで累計2億ドルの出資を受けています。

  • 参照:2021年3月21日ECのミカタ「日本参入から1年、Allbirdsのデジタル戦略とインフラ構築の現状は?」

その他にも、環境問題にも取り組むアウトドアブランドのCotopaxi(コトパクシ)は、販売を通じて貧困に苦しむ人々を助けるという姿勢を見せていて、売上高の1%を貧困の撲滅や教育支援などに関わる非営利組織に寄付することや、ソルトレイクシティで暮らす難民が書いた直筆の感謝状を添えて発送するなど、一過性の利益追求だけではなく、関わる人々が共に幸せになるような持続可能な取り組みを心がけています。

  • 参照:2020年6月8日success board「リャマから始まったD2Cブランド?Cotopaxiにまつわる5つの話」

これらのD2Cブランドは、特にミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若い世代から多くの支持を得ています。モノの機能性だけではなく、イミレベルの価値を作ることが必要とされています。

企業人が求めるサステナビリティ経営

企業の存在意義を意味するパーパス(Purpose)に基軸を置いた「パーパス経営」が次世代の経営モデルとしてビジネスパーソンの注目を集めています。名和高司著『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』(東洋経済新報社)で述べられているように、パーパスは、ミッション、ビジョン、バリューの価値観の上位概念として存在し、信念や夢を超えて「自分は何のために存在するのか」そして「社会にとって役に立つ仕事をしたい」という内から湧き出るもの、企業や組織の存在意義が現れる「志」であると言えます。これらの概念が広くビジネスパーソンに受け入れられているという事実こそ、企業人が仕事を通じてサステナビリティを実現したいという想いの表れでないでしょうか。イミを求める価値観、サステナビリティ経営への欲求は、企業や組織の中にも当たり前のものとして、表れはじめていると言えます。さらに、このような「社会に貢献したい」という想いが重なることが、組織美学へも影響を及ぼすと考えられます。美学とは「aesthetics(エステティクス)」の訳で、表面的に整った美しさではなく、組織に関わる人々の営みにおいて、感性や生き様、誇りや文化の重さなどの心地よさが、実は重要な経営の柱になっているという考え方であり、激しい競争環境の中だからこそサステナビリティ経営が根付いた先に訪れる、新たな存続のための重要な資産であるとも言えます。

  • 参照:2021.10.19週間エコノミスト『歴史や文化を守り抜く「老舗の美学」』加藤敬太著

加えて、企業が社会的な問題にコミットし社会改革に貢献することが結果的にも企業に利益をもたらすというソーシャリー・リスポンシブル・ビジネスという概念も存在しています。(マコワー他、1994)企業が永続的に活動していくために、サステナビリティ経営は必要不可欠となりつつあるのでしょう。

投資家が求めるサステナビリティ経営

企業の持続可能性と、インクルーシブ(包摂性)、社会的責任を高めるための改革は現在活発に進められています。それに呼応するように、投資家たちの意識も変化してきています。米国最大手企業(コムキャスト、コカ・コーラ、ウォルマート、ウェルズ・ファーゴ等)のCEOらに代表されるビジネスラウンドテーブルは2019年夏、「企業の目的に関する声明」を発表し、資本主義が株主だけでなく労働者、顧客、環境に資することを望む――つまり「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。自社の利益の最大化だけではなく、社会における企業の存在意義であるパーパスの実現を目指すべきだという声明を発表したのです。加えて、運用資産額を合わせると100兆ドルにも上る数々の投資機関が、投資において環境、社会、ガバナンス(ESG)の問題を重視することを提唱する国連責任投資原則(PRI)に署名もしています。ESGが企業価値に繋がるという研究結果も出ているように、投資家からのサステナビリティ経営への要望は益々高まっていると言えます。

  • 参照:2021年1月号HBR『ESGの「見えざる価値」を企業価値につなげる方法』柳 良平 :エーザイ 専務執行役 CFO、早稲田大学大学院 客員教授

これらの多くのステークホルダーが後押しするように、サステナブル経営はもはや当たり前の価値観となり、企業の重要なパーパスの一つとなりつつあります。導入にいたっては、多くの壁があることも認識されてはいますが、組織に根付かせて統治しなければならない重要なトピックであると言えます。

  • 参照:2021年10月号HBR『パーパス経営の実践に英雄はいらない』

Profile

北海道大学 産学・地域協働推進機構 特任講師
椎名 希美
2008年に北海道大学医学部を卒業し、診療放射線技師として救急病院で勤務する傍ら、小樽商科大学のビジネススクールに通いMBA(経営管理学修士)を取得。2014年に株式会社リクルートキャリアに入社しリクルーティングアドバイザーを務める。2016年にSNSマーケティングや6次化商品開発を行うベンチャー企業を設立。2017年より小樽商科大学の学術研究員として文科省次世代アントレプレナー育成事業(Edge-Next事業)を担当し、2020年からは北海道大学の特任助教として勤務。2020年7月より現職。

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