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クライアント企業の情報開示、ブランディングの進化・深化を考える
ブレーンセンターの「視点」

非財務情報義務化時代の統合報告書とは投資家が求める「物語の発信」と「対話の促進」を生み出す報告書

投資家が独自性を求める「二本立て」開示

サステナビリティ開示を巡る環境が劇的に変化しています。日本ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)による基準策定が進み、2024年度以降、有価証券報告書(以下、有報)での開示が段階的に義務化されることとなりました。法定開示の拡充にともない、効率化の観点から「有報への一本化」を検討する企業も増えています。

しかし、情報の読み手である投資家の視点は異なります。投資家が有報に加えて統合報告書という「二本立て」での開示を求める最大の理由は、統合報告書が法定開示にはない「表現の自由度」を備えている点にあります。ルールに基づいた均質な情報を提供する有報に対し、統合報告書は企業の創意工夫や多様性を反映できる媒体です。その意味で投資家は、投資判断において不可欠な「企業の独自性」や、将来の成長に向けた熱意を伝える役割を、引き続き統合報告書に期待していると感じます。

事実を語る有報と、物語を紡ぐ統合報告書

有報と統合報告書は、決して重複するものではなく、相互補完的な関係にあります。有報の目的は、投資家の判断に有用な情報を網羅的・正確に提供することであり、その性格は「事実(What)」や「数字」に重きを置いたものです。厳格なフォーマットに従い、比較可能性と信頼性が重視される有報は、企業の現状を正しく把握するための基盤となります。

一方、統合報告書の役割は、財務・非財務情報を統合し、中長期的な「価値創造ストーリー(Why/How)」を伝えることにあります。経営トップのメッセージを通じて、なぜその戦略をとるのかという「経営哲学」を語り、目に見えない資本がどのように将来の財務価値につながるのかという文脈(コンテキスト)をロジカルかつ物語性豊かに説明できるのが強みです。有報で結論としての数字を示し、統合報告書でその背景にある戦略ストーリーを語るという「戦略的な書き分け」こそが、投資家が最も求めている開示の姿といえます。

SSBJ対応に伴う有報、統合報告書、サステナビリティサイト(レポート)の役割

先行開示事例:キリンHDのSSBJ対応

SSBJ基準への対応において、日本企業でいち早く動いたのがキリンホールディングス(キリンHD)です。同社は、自社の開示義務化に先駆け、2025年度からSSBJ基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を有報において開始しました。一部の項目については第三者保証も取得しており、CSV経営の高度化と透明性の向上を加速させています。

キリンHDはこの先行開示を通じて、投資家に対して国際比較が可能な情報を早期に提供するだけでなく、サステナビリティに関するリスクや機会がもたらす財務的影響を可視化させています。この一方で、同社は「Innovate2035!」といった長期経営構想に基づく価値創造ストーリーを公表しています。今後はこのストーリーに込めた想いや実践のありようを統合報告書等の任意開示媒体で発信していくことが推察されます。法定開示の要請に高いレベルで応えつつ、自社のパーパスに基づく「らしさ」を統合報告書で補完する姿勢は、これからの開示のモデルケースといえるでしょう。

海外に学ぶ「ストラテジックレポート」化

海外の統合報告書に目を向けると、膨大な情報量を整理するための進化した構成が見られます。海外の大手企業では、制度開示を含めた数百ページに及ぶ「One Report」を発行する際、その巻頭に「ストラテジックレポート(戦略レポート)」という章を配置しています。

このストラテジックレポートは、制度上の網羅性を満たす後半のデータセクションとは切り離され、企業の成長戦略を端的に理解できるように構成されています。情報の「濃淡」をはっきりとつけ、投資家が最も知りたい「戦略のコア」を冒頭で提示するこの手法は、情報過多に陥りがちな日本の統合報告書にとっても、コンサイス(簡潔)化と戦略性の向上を両立させるための大きなヒントとなります。網羅性は有報やWebサイトに譲り、統合報告書自体は「戦略レポート」としての役割を明確にすることが、グローバルな情報開示の潮流といえます。

ユニリーバの年次報告書(Annual Report and Accounts 2025)は統合報告として、会計報告と戦略報告(Strategic Report)を一体化して発行されています。Strategic Reportでは財務情報と一緒に最も重要なサステナビリティ課題と責任経営の取り組みが統合的に記載されています。

戦略からストーリーを構築するブレーンセンターの伴走

統合報告書において「戦略レポート」としてのストーリーを発信するためには、単なる編集作業を超えた「戦略の言語化」がますます必要になります。まず取り組むべきは、コーポレートストーリーの再構築と、戦略に紐づくマテリアリティ(重要課題)の明確化です。サステナビリティサイトを「網羅的なエビデンス集」とし、統合報告書を「企業のユニークネスを伝える戦略ストーリー」と位置づける役割の整理が欠かせません。

ブレーンセンターは、単なる制作支援に留まらず、企画段階からのストーリー構築、そして発行後のマルチユース施策に至るまで総合的に伴走します。制作プロセスを通じて自社の強みや課題を再確認し、組織の「統合思考」を促すことで、企業価値向上のサイクルを生み出す経営戦略の要として統合報告書を磨き上げていくことをご支援しています。

また、統合報告書に凝縮された良質なコンテンツを、動画やWeb特設ページ、採用ツールへと再定義する「ワンソース・マルチユース」の提案を通じて、投資対効果の最大化も支援します。コーポレートストーリーの再定義と実践をお考えであればぜひご相談ください。