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クライアント企業の情報開示、ブランディングの進化・深化を考える
ブレーンセンターの「視点」
社会的インパクトを、どう伝えるか?これからのサステナビリティWebサイトの役割
近年、企業活動が「社会や環境に与える正・負の影響(インパクト)」を可視化し、ステークホルダーにわかりやすく伝えることが求められています。そうしたなか、企業のサステナビリティサイトの役割は、単なる活動情報の羅列的、網羅的な開示から、より戦略的で、パフォーマンスの成果を重視した情報発信へと変化しつつあります。ここでは、「社会的インパクトを伝えるサステナビリティサイトの役割」について、背景や昨今の傾向を紹介します。
※ 本記事でご紹介している事例は当社実績ではありません
なぜ、インパクト情報開示が求められているのか?
そもそも、インパクト情報開示が求められる背景には、以下のような背景があると考えられます。
1)環境問題や社会課題への意識の変化
特に、ミレニアル世代やジェネレーションZといった若い世代は、環境や社会課題への関心が強く、自らの消費や投資行動を通じて社会貢献したいと考える傾向にあり、これがインパクト投資市場の拡大を後押ししています。
2)インパクト投資市場の拡大
インパクト投資は、財務的リターンだけでなく、測定可能な社会的・環境的リターンを同時に追求する投資手法であり、SDGsの目標達成に資する投資として注目を集めています。大手都市銀行や資産運用会社がこの分野に新規参入し運用額が増加した結果、インパクト投資市場は急速に拡大しています。日本では2024年3月に金融庁が「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表し、厚生労働省や内閣もインパクト投資推進を明記するなど、政策面での後押しが強まっています。
3)政策や規制の変化
欧州連合(EU)の「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」のように、一定規模以上の企業にサステナビリティ情報の開示を法的に義務付ける動きが世界的に加速しています。CSRDでは、「ダブル・マテリアリティ」の原則が導入され、企業の業績や財務に与える影響だけでなく、「企業活動が社会や環境に与えるインパクト」の開示も求められています。
4)企業経営の変化とパーパス経営の広がり
企業の価値創造の源泉が無形資産や社会的信頼にシフトする中で、企業の存在意義(パーパス)や重要課題(マテリアリティ)に沿った経営が重視されるようになりました。インパクト情報開示は、このような経営における企業の信頼性や持続可能性を示す重要な手段といえます。
地域ごとにみる、インパクト情報発信の傾向
欧州
CSRDなどによるサステナビリティ情報開示の義務化が進む欧州では、特に「ダブル・マテリアリティ」の原則に則り、「企業が社会・環境に与えるインパクト」(インパクトマテリアリティ)と、「社会・環境が企業に与える財務的リスク・機会」(財務マテリアリティ)の両面を開示する点が特徴です。そのため、インパクトの定量的な目標設定および開示が進んでいます。サステナビリティサイトでは、優先取り組みテーマを鮮明にし、数値や指標だけでなく、事業活動による社会的・環境的成果や課題、将来の目標などをストーリーとして発信し、企業の存在意義や社会的価値をわかりやすく伝えています。単なる義務的な情報開示を超えて、企業のブランドイメージの向上につなげようとする意思が感じられます。
事例:Unilever
「Climate」「Nature」「Plastics」「Livelihoods」の4テーマを持続可能性に関する優先事項とし、それぞれの中長期の定量的なゴールを設定。ネガティブインパクトの削減と、ポジティブインパクトの増大の方針を定量的に伝えています。サステナビリティサイトでは、この4つのテーマのKPIと取り組みを伝える構成となっています。
Unilever: A new era of corporate sustainability
事例:Schneider Electric
「Impact Company」を標ぼうし、社会に対してポジティブインパクトを生み出す会社としてのブランディングを推進しています。サステナビリティサイトでは、「Climate」「Resources」「Trust」「Equal」「Generations」「Local」という6つの切り口で定量的にインパクトを開示するとともに、取り組みを紹介。また、四半期ごとに取り組みの進捗を報告するインパクトレポートもPDFで公開しています。
Schneider Electric: Corporate sustainability and development goals
米国
トランプ大統領の就任以降、反ESGの傾向が強まる米国では、例えば時価総額上位を占めるGAFAMにおいても、積極的なサステナビリティ開示が行われています。ただし、欧州や日本のように、フレームワークに沿った開示というよりは、独自の問題意識にもとづく情報開示を行っている傾向にあるようです。
事例:Apple
Webサイトでは、「Apple Values」というカテゴリータイトルのもと、「Accessibility」「Education」「Environment」「Inclusion and Diversity」「Privacy」「Racial Equity and Justice」「Supply Chain Innovation」という7つのテーマで構成。このうち、「Accessibility」「Inclusion and Diversity」を除く5テーマについては、PDFで「Impact Report」あるいは「Progress Report」を発行しています。
事例:Amazon
Webサイトでは、「Our Impact」というカテゴリータイトルのもと、「Sustainability」「Community」「Small Businesses」「Economy」の4つのテーマで構成。事業を通じていかにポジティブインパクトを生み出しているかを、定量情報・定性情報を交えてアピールしている。
日本
日本企業もまた、資本市場からのサステナビリティ情報の開示要請を受け、上場企業を中心にサステナビリティサイトにおける情報発信を強化するほか、マテリアリティを特定したり、社会的インパクトの可視化に取り組む企業も増えています。一方で、サステナビリティサイトにおいてはESGなどの切り口で体系的かつ網羅的な情報開示を重視する企業が多く、優先テーマやインパクトを強調したアピーリングな情報発信は限定的な傾向にあります。そうしたなかで、インパクトを強調した特徴的な情報発信をしている事例を紹介します。
事例:LIXIL
企業サイトに「インパクト」というカテゴリーを設け、「インパクト戦略」にもとづく3つの優先取り組み分野(「グローバルな衛生課題の解決」「水の保全と環境保護」「多様性の尊重」)を強調。それぞれのKPIや取り組みを明確にし、サステナビリティに対する企業の姿勢が端的かつ鮮明に伝わる構成となっています。
事例:メルカリ
サステナビリティサイトにおいて、「個人と社会のエンパワーメント」や「あらゆる価値が循環する社会の実現」といった事業を通じてポジティブインパクトを創出することを強調。取引による新品商品の抑制効果や、温室効果ガス(GHG)の削減貢献量など、定量的にインパクトをアピールしている。PDFで、インパクトレポートも発行している。
インパクト情報発信のススメ
まずは、自社にとっての社会的インパクトを検討する機会をつくろう
インパクトの開示といっても、そもそも社内的なコンセンサスがないケースが多いと思います。まずは、経営陣を交えて自社が創出できる社会的インパクトを検討し、社内で認識をすり合わせることが重要です。また、検討の過程に多くの社員に参加してもらうことで、自社の社会的価値を再認識し、帰属意識や誇りの醸成にもつながるはずです。
定性情報の開示からでも構わない
インパクトというと「定量化」しないと意味がないと考える人も少なくありませんが、必ずしもそのようなことはありません。前述のとおり、まずは社内で議論し、抽象度の高いインパクトになったとしても、開示することで社内外のステークホルダーとの対話の起点になります。その対話から得られる助言をもとに定量化を検討していけばよいのです。
サステナビリティサイトを「対話の起点」のメディアとして進化させる
Webサイトは、多くの人に開かれたメディアであり、テキスト情報にとどまらず、動画や映像などを活用してよりわかりやすく伝えることもできます。サステナビリティサイトを、単なる情報開示メディアから、コミュニケーションメディアへと進化させ、ステークホルダーとの対話を支える戦略的なツールとして活用することを検討してみてはいかがでしょうか。
ブレーンセンターでは、サステナビリティに関わる情報発信のコンサルティング、メディア制作を支援しています。お気軽にご相談ください。