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投資家向け広報(IR支援)

議決権行使の動向から見えてくる
日本企業におけるガバナンスの課題とは?

Hermes (ハーミーズ)EOS
エンゲージメント担当
アソシエート・ディレクター
鈴木 祥

掲載日:2019年11月11日

02日本企業における主なガバナンス課題

株主総会は企業と株主の双方にとって重要なイベントであるが、ここで株主から賛同を受けることがガバナンス改革の目的であってはならない。弊社でも議決権行使に関する助言は力を入れて行っているが、これはあくまでもスチュワードシップ活動の一環として、エンゲージメントを補完するものと考えている。日本企業におけるガバナンス面での主な課題について少し掘り下げる。

1)資本管理

多くの株主提案が増配や自社株買いなどの株主還元を求める理由は明白であるが、これには日本企業の財務体質も影響していると考えられる。概して日本企業はキャッシュや政策保有株を長期にわたり保有する傾向にあり、この株主資本の使途について十分な説明がなされていないことが多い。最適な資本構成は個別企業の状況に依存するため、取締役会に問われる課題だ。しかし、将来に向けた投資に使うのではなく、キャッシュの保留を続けては企業価値の向上にもつながらないため、株主に還元することが求められるのは当然だ。

先にも述べた通り、ここ数年で多くの日本企業の間で資本効率や株主の関心事への認識が高まった結果、配当性向を上げ、自社株買いを積極的に行う企業も増えてきた。それでも平均すると配当性向は30%程度にとどまり、欧米企業の50%弱と比較するとまだ低い*。明確な説明もないまま潤沢なキャッシュを保留し続ける企業も少なくない。安全経営を目指すだけでは持続的な成長を続けることができない可能性がある。実際、日本企業は割安の評価がされていることが多いが、資本効率を改善することによって、バリュエーションを上げることも可能だ。

2)取締役会の構成

日本企業の取締役会は伝統的には経営陣によって構成され、社外取締役の登用が一般化したのは比較的最近のことだ。少し前までは、社外取締役ゼロの企業も少なくなく、また社外取締役がいても、取引先や借入銀行出身者など、当該企業からの独立性が低い人物が多かった。つまり、独立した立場から経営陣を監督し、また少数株主の利益を保護するという役割を担う人がいなかったのだ。2015年にコーポレートガバナンスコードにより、独立社外取締役を2名以上任命することが求められたことに後押しされ、独立社外取締役を任命する企業の数は一気に増えた。

しかしながら、独立社外取締役の最低人数が2名というのは世界的に見ても少ない。英国や米国では過半数が当たり前で、取締役会のうち社内出身者はCEOとCFOのみ、といったケースも少なくない。東南アジアなどでも3分の1以上が求められている国が多い。日本でも大企業を中心に3分の1程度の独立取締役を任命する企業が増えてきているが、全体としてはまだ圧倒的に社内取締役の方が多い。さらに、取引銀行の他、株の持ち合いの関係にある企業出身など、独立性に疑問が持たれる取締役も依然として多い。

また取締役会における多様性という点では、日本企業は他国からかなり遅れを取っている。ここ数年で女性の取締役を登用する企業が増えたとは言え、全体に占める女性の割合は世界的に見て非常に低い。また海外での売り上げの方が圧倒的に多い国際的な企業であっても取締役は全員日本人、しかも一定の年齢以上ということが多い。さらには、社内出身者が多いことも相まって、取締役の間で経験やスキル、また年齢の多様性に欠けることも多い。似たようなバックグラウンドの人材ばかりが集まっては、集団思考に陥り、様々な視点や観点を持てない可能性があり、色々な意味での多様性が求められる。

3)政策保有株式

日本に特有と言える問題のひとつは株式の政策保有、いわゆる持ち合いである。これが問題とされる理由として最も一般的なのは、資本効率性に関わるものであるが、この他にもガバナンスなどの観点から問題はいくつかある。

第一に、政策保有の目的は多くの場合、取引先と良好な関係を維持することであり、裏を返せば、取引の前提として株式の保有関係があるということだ。極端な例では、保有関係のない企業とは取引をしないといったことさえ起こりかねず、市場の公正な競争の妨げになり得る。第二に、こういった良好な関係維持を目的にした保有関係にある相手に対しては、仮に問題があっても批判することが難しい。株主総会でも当然のように賛成票(あるいは白紙投票による賛成)が出されることが一般的である。第三に、純粋な投資目的で株を保有している機関投資家や個人の投資家は、株価の上昇や配当からしかリターンを得られないが、政策保有の株主は、取引面で優遇を受けるなどして、追加の便益を得ていることになり、これは株主平等の原則に反する。

歴史的に見れば、持ち合い株は大幅に減少し、特に最近は銀行の自己資本比率に関する国際的な規制の影響もあり、メガバンクを中心に政策保有を減らしてきている。それでも根強く保有を続ける企業もある。2018年のコーポレートガバナンスコードの改訂では、政策保有株の削減への語調が強まり、取締役会が保有目的や保有に伴う便益を精査することなどが求められている。しかしながら、逆に保有意義があると判断すれば保有を続けてよいという考えている企業も見受けられる。実際に、取引の条件として取引先の株を持つことを求められる、といった話も聞かれ、このような場合には保有の便益があると判断されるのだろう。しかし取引の条件として株の保有を強要するような行為は非常に問題があり、ガバナンスコードも、取引の縮減を示唆することなどにより売却等を妨げるべきではない、と明記していることも企業は認識すべきだ。またこういった不当な要求を受けた企業は適切に対処する必要がある。

4)役員報酬

過去2-30年の間に欧米の大企業のCEOの報酬は急増し、一般的な従業員との格差も広まり続け、社会問題と言っても過言ではない状況にある。Economic Policy Instituteのデータによれば、2018年の米国のトップ350社のCEOの報酬平均は1,720万ドル(約18億2千万円)で、平均的な従業員の給与の278倍だったという。この比率は1965年には20倍、1989年には58倍だったとのことで、格差が急速に広まったことが伺える。報酬総額のうち、賞与や株式によるインセンティブなどの変動給が大半を占めるため、その上限の設定の仕方にも批判がある。

これと対照的に、日本企業トップの報酬は固定給の占める割合が多く、インセンティブが少ないため、業績連動部分を増やし、適度のリスクを取らせるべきだとの考えもある。一方で、総額の水準も欧米と比較すると低く留まり、一般従業員や市民との不平等感がさほど生まれていないことは評価に値するとの考えもある。報酬の問題が取り上げられることが少なかった背景もあり、日本企業においては役員報酬に関連する情報の開示が少ない。報酬額の個別開示については、1億円以上受け取った個人について開示が求められるが、賞与や株式報酬の付与の条件や業績との連動についての開示状況については、一部の企業を除いて開示が非常に限られている。

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