CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性
レポート作成者:
Sustainavision Ltd.代表取締役 下田屋 毅
掲載日:2012年12月6日
02企業トップ・取締役に対するCSRに関する働きかけ
CSRを企業が進める上で重要なのは、企業トップ・取締役会のCSRに対する正確な認識とコミットメントである。しかしながら、企業のCSR部門の悩みの種は、CSR活動に関して、どのようにして企業トップ、取締役に本来のCSR活動を理解してもらい、そしてコミットメントを得るかということとなっている。この傾向は日本だけに限らず欧州やその他の地域でも存在している。
CSR活動が停滞しているか、進んでいない企業は、企業トップ・取締役、CSR部門、その他部門の従業員が、「CSR」について思い浮かべる概念が違っている。そのような企業のトップや取締役は、CSRについての理解が不足しており、CSRを「慈善事業」や「ボランティア活動」のようなものと捉えており、コストがかかる余計なものと認識している人が大半を占める。
CSRの推進には、トップダウン、ボトムアップの双方が求められ、企業トップ・取締役のコミットメントなしにはCSRの推進は難しい。現状では、多くの企業のCSR部門が、取締役レベルにCSRの重要性を理解してもらうのに苦労している。そのような中、どのように企業トップ・取締役からコミットメントをもらい、CSRを戦略的に実施していくようにしたらよいのだろうか?
欧州の先進企業では、企業トップ・取締役は、「CSRは企業活動を進めていく上で必要不可欠なものであり、そして、企業がCSRに戦略的に取り組むことで企業に多くのメリットをもたらし、企業の持続可能性とともに、環境・社会の持続可能性にも貢献すること」を知っている。
企業トップ・取締役にとってのCSRとはなにか
CSRは、企業にとって重要なリスクと機会を表している。社会と環境のリスクマネジメントとCSRに関するパフォーマンスを監督することは、中長期に渡って株主とその他ステークホルダーとの関係を良好に保ち、さらなる促進につながる。取締役がCSRを理解し、促進する必要があるのは、次の企業活動に重要な事項に関連しているからである。
CSRは、
- 企業戦略とビジョンに大きく影響を与え、さらなる強化ができる
- 取締役レベルの監視と説明責任を必要とする
- リスク認識とリスクマネジメントに影響を及ぼす
- 取締役会の構成とそれぞれの専門性を必要とする
- ステークホルダーへの適切な情報開示を実現する。
CSRに関する企業パフォーマンスは、通常様々なセクションから報告されるので、取締役がCSRの全体像をつかむのが難しくなっている。組織内のスムーズな伝達、情報集約のためにもCSRに考慮したガバナンスが必要となるのである。CSRガバナンスの体制を構築し定期的に改善していくことで、企業トップ・取締役がCSRの問題と機会を効果的に管理・活用することができるようになる。
CSR部門は企業トップ・取締役に上記の重要性を理解してもらう勉強の機会を設け、そしてCSR推進の為のCSRガバナンスの構築の重要性を訴え、コミットメントを得る必要がある。
企業ケース (マークス&スペンサー(M&S))
英国の老舗スーパーマーケットである「マークス&スペンサー」(M&S)。フランチャイズ店を含め世界48カ国に700店以上を展開する巨大チェーン店である。M&Sは「プランA」というCSRに関するコミットメントを打ち出し、 「世界で最も持続可能なスーパーマーケットになる」という究極の目標を設定、近年コミットメントを180に拡大し、2015年までに到達することをステークホルダーに提示している。
このM&Sは、CSRに関する社内のコミットメントを得る為に、企業トップ・取締役、そして従業員に対するCSR教育を実施し、CSRを推進する仕組みを作り上げている。
同社のサステナビリティマネージャーであるローランド・ヒル氏に確認したところ、「近年M&Sの取締役レベルに就任する人物は、M&SがCSRやサステナビリティをリードしている企業という認識があり、CSR/サステナビリティの分野に詳しい人物が就任することが多い」また、「取締役に対しての教育については外部のCSR/サステナビリティの有識者を講師に迎え、取締役レベルの人々にさらに理解を深めてもらっている」という。
また、M&Sのすべての取締役・幹部には、「プランA」のターゲットそれぞれに責任が振り分けられており、個人の業績評価と収入に結びついている。「プランA」のコミットメントの進捗状況は、毎月確認され、取締役と監査委員会には半年ごとに報告されることとなっている。
CSRガバナンスへ向けたロードマップ
取締役会が、CSRを理解し、取り組みを開始するにあたって、カナダ産業省は次のような「良いCSRガバナンスへ向けたロードマップ」を提唱している。
企業トップ・取締役会は、CSRガバナンスを委任するにあたり、現在のCSR関連のガバナンスを見直し、企業のCSRガバナンスの取り組みが、ベストプラクティスと比較してどのレベルにいるのかを理解することから始める必要がある。そして、現状を踏まえた上で、ロードマップを実践していく。
ロードマップの順番は、CSRガバナンスを見直した評価結果と取締役の優先順位に基づいて変化するが、その行動内容は一般的に次の2つに振り分けられる。
フェーズ1:取締役は、早い時期に自分達のCSRガバナンスの委任を進める。
フェーズ2:取締役が、自分達のガバナンスの役割にCSRをさらに統合することを承認する。
<フェーズ1(ファーストステップ)>
- 取締役自身が自社のミッションや企業価値、方針にCSRを組み込む。
- CSRに関する責任をCSR委員会に委任する。
- 取締役のCSRに関するコミットメントを企業内、そして、ステークホルダーに伝える。
- CSRのリスクと機会について継続して取締役レベルに対する教育を行う。
- CSR戦略とリスクマネジメントに関する監視を実施する。
- 主要な意思決定にCSRを反映させる。
- ステークホルダーに対するCSRパフォーマンスの情報開示を再検討する。
<フェーズ2(更なるレベルアップ)>
- 効果的なCSRマネジメントシステムを確立する。
- 取締役会がステークホルダーの生の声を聴くことができる正式な仕組みを作る。
- 企業トップ・取締役の雇用にCSRの要因を組み込む
- CSRパフォーマンスについての取締役報酬を導入する。
- 取締役としての活動がCSRに沿っているかを確認するイニシアチブを導入する。
- CSRガバナンスを継続して改善していく為に取締役の年次評価にCSRを組み込む。
CSRを推進するにあたって、企業のトップ・取締役の役割は非常に需要であり、トップダウンなしには成し得ない。上記の流れに沿ったCSRガバナンスを社内に構築する為に、企業トップ・取締役が、CSRを戦略的に実施していくメリットや重要性、そして現在注目されている「国連ビジネスと人権に関する指導原則」などを含む、国際的なCSRに関するトレンドやISO26000など国際的なガイドラインを把握・理解できる体制を整えることが必要であると考える。
Profile
- Sustainavision Ltd.代表取締役 下田屋 毅
- 在ロンドンCSRコンサルタント。大手重工会社の工場管理部にて人事・総務・労務・教育・安全衛生などに携わった後、環境ビジネス会社の立上に参画。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本のCSRの懸け橋となるべくCSRのコンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。
- Sustainavision Ltd.ホームページへ