CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性
レポート作成者:
Sustainavision Ltd.代表取締役 下田屋 毅
掲載日:2012年12月6日
03従業員に対するCSR浸透教育とエンゲージメント
CSRを社内で推進する為には、企業のトップ・取締役、CSR部門、その他部門の従業員が「CSR」について、共通認識を持つことが大切である。CSRはCSR部門だけが推進するのではなく、企業トップ・取締役からのトップダウン、そして、従業員からのボトムアップが非常に重要となる。CSRの共通認識を社内で共有することによりCSR推進のベクトルが合い、企業活動を通じて、環境・社会に関する持続可能性に貢献することができ、企業自身も持続可能となる。
CSRに関する従業員エンゲージメントの方法は、次の3つが必要だとされる。
- CSR教育
- 個々の従業員に対するCSRプログラム
- CSR戦略形成のための従業員のフィードバックの活用
では実際に社内でCSR推進のベクトルを合わせている「欧米の先進企業」は、どのようにCSR浸透教育、エンゲージメントを行っているのか企業ケースを見て行きたい。
企業ケース 1 (コカ・コーラ ヘレニック社)
コカ・コーラ ヘレニック社は、東欧諸国を中心とした28カ国にコカ・コーラの製品を製造販売しており、従業員は約4万2千人の会社である。FTSE4Goodインデックスとダウジョーンズ・サステナビリティ・インデックスに選定され、CSR報告書は、GRIベースの制作でA+の評価を受けている。
コカ・コーラ・ヘレニック社は、トップダウンとボトムアップのアプローチでCSRを推進。従業員教育は、日々のビジネスに統合されている。全ての管理者は、彼らのCSR戦略・実践において役割が与えられ、CSRに関して業績評価の対象となっている。
従業員へのCSR教育のツールは、①イントラネット、②パンフレット、③セッション、④ビデオ、⑤掲示板、⑥イベントでの通達、⑦4か月に一回の従業員マガジン、⑧ホームページ、⑨CSR報告書、⑩ビジネス行動規範、である。
従業員のCSRへのエンゲージメントの施策として、ボランティアプログラムや、CSRプログラムへの従業員の参画があり、従業員に主要業績評価指標(KPI)を意識させて、CSRの目標達成を促している。
CSRに関するトレーニングは、従業員に対し、イントラネットを通じたCSRのeラーニングプログラム、またエコドライブ教育、シニアマネージャーに対しするサステナビリティ・トレーニングを実施している。
また、全従業員を対象に任意・匿名にて社内アンケートを年2回実施、CSRプログラムについてのフィードバックを得ている。
企業ケース2 (インテル社)
インテル社は、アメリカの半導体メーカー。アメリカを中心として、世界に約10万人の従業員がいる。CSR報告書はGRIをベースに作成、Aの自己評価を与えている。
インテル社は、トップダウンとボトムアップのアプローチで、CSRを推進。CSRプログラムに関する従業員教育、またプログラムの参加を通じて、社内コミュニケーションと従業員エンゲージメントを推進している。「従業員がいなければ我々は企業ではない」という考えがあり、「組織健康調査」として全従業員に52の質問を投げかけ、職場の項目別満足度を確認、従業員に対して「素晴らしい職場」の提供を追及している。
従業員へのCSR教育のツールとしては、①トイレ・食堂のスクリーンにてCSR関連の情報提供、②eメール、③自社のCSR関連記事をイントラネット・プラットフォームにて提供、④ソーシャルメディア(ブログ、フェイスブック、ツイッター、オンラインセッション)、⑤ニュースレター、⑥オンラインコミュニケーションツール、⑦四半期に1度の全従業員対象とした面談、⑧CSR配慮週間。また、インテル社は、インテル大学を2011年に設立、従業員に対しビジネススキルアップを含む包括的なトレーニングを提供している。
従業員のCSRエンゲージメント施策としては、インテルCSRプログラムへの従業員の参加、そして、従業員ボランティアがある。
従業員からのフィードバックは、次の項目から得ている。①オープンドアポリシー(従業員がいつでも自分達のフィードバックを全てのレベルの管理者に伝えることができる)、②イントラネットの日刊新聞、また、従業員用のソーシャルメディアプラットフォームにて直接フィードバックが可能、③四半期に1度の全従業員を対象とした面談、④エグゼクティブ公開討論、ウエブQ&Aセッション、⑤年1回、従業員の組織に関する懸念・ニーズを図る「組織健康調査」。
CSR推進の「阻害要因」、そして「可能にする要素・条件」
従業員に対してCSRを浸透させるためには、CSRを推進するために何が社内での障壁となっているのかを理解する必要がある。そしてそれを踏まえたCSR推進の浸透教育・エンゲージメントを実施することが必要となる。
一般的なCSR推進の阻害要因は、以下のとおり。
- <CSR推進の阻害要因>
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- 従業員がCSRに興味がない。
- 短期的なリターンのみを考えたプロジェクトや支出をしている。
- CSR担当部門が権限を持っていない、あるいは、組織図上関係のない位置にある。
- CSR担当部門のCSR推進に関するリーダーシップスキル(他部門との協調・連携、コミュニケーション、チームビルディング、CSRビジョンなど)が不足している。
- 組織が縦割りで従業員が追加の役割を担うことが難しい。
- 従業員が、自分の領域だけに固執し、他部門と連携を取ろうとしない。
- 組織内において、CSRに関する価値を見出せない環境・状況がある。
- はっきりとしたCSR戦略がない、あるいはCSR戦略が弱く機能していない。
- 部門長やマネージャーなどの管理者が、従業員のCSR活動をサポートしない。
上記を踏まえてCSR推進を可能にする状況を作り出すことが必要である。
- <CSR推進を可能にする要素・条件>
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- CSR担当部門がCSRを推進する権限を与えられている。
- CSR担当部門が従業員に対してCSRのメリットや、CSRがビジネスにどのように好影響を及ぼすかを伝える役割を担っている。
- ビジネスに直結したCSR戦略を持つ。
CSRとビジネスの関連性が明確な「CSR戦略」があり、CSR活動と自社のビジネスとの協業、シナジーを生み出している。 - CSR戦略が企業システムに組み込まれていて、従業員がCSRに取り組みやすい環境がある。
CSRの推進が個人の業績評価につながる。従業員に対するCSR教育が整備されCSRの知識を蓄えることができる。 - 部門長やマネージャーなどの管理者にCSR推進についての意欲を持たせることにより、さらに従業員にCSRに取り組ませることができる仕組みがある。
- 組織を横断的にカバーしている他部門と連携する。また、全社的に成功したイニシアチブのルートを活用してCSRを推進する。
- CSRの特定の分野に詳しい従業員、または、興味を持っている従業員が、その分野の推進者・リーダーとなる仕組みがある。
- CSR担当部門は、CSRを段階的にそして効果的に実施する為に、部門長やマネージャーなど管理者と良好な関係を保っている。
- 従業員がCSR戦略、CSRがどのように企業目標を達成できるかを良く知り、企業を成功に導くための役割を理解する。
社内でCSRを推進するためには、社内のCSRのベクトルを合わせることが重要であり、トップダウン・ボトムアップ両面からのアプローチが必要となる。CSR推進において、自社がどの段階にあるのかを自己診断し、自社に必要なシステムやツールを導入・活用して、是非次のステップへと進んでいただきたい。
Profile
- Sustainavision Ltd.代表取締役 下田屋 毅
- 在ロンドンCSRコンサルタント。大手重工会社の工場管理部にて人事・総務・労務・教育・安全衛生などに携わった後、環境ビジネス会社の立上に参画。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本のCSRの懸け橋となるべくCSRのコンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。
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