Angle
クライアント企業の情報開示、ブランディングの進化・深化を考える
ブレーンセンターの「視点」
カタカナ語が引き起こす“英訳の落とし穴”英語らしく見える表現が、翻訳時に意味のズレを生む!?
「ビジョン」「ナレッジ」「DX」—ビジネスシーンでは、こうしたカタカナ語やアルファベットを用いた略語が日常的に使われています。いわゆる”ビジネス用語”と呼ばれるものです。しかし、こうしたカタカナ語の中には、一見英語圏で使われている言葉と同じでも、英語にはない意味やニュアンスが加わっていることも少なくありません。もし翻訳者がこのことを知らなかった場合は、そのカタカナ語をそのまま英単語に置き換えてしまうこともあります。
その結果、日本語としては違和感無く読めた文章が、翻訳された英文では本来の意図とは違う意味になってしまったり、誤解される文章になってしまったりすることがあります。カタカナ語は便利な一方で、場合によっては誤訳の原因にもなりうるのです。
今回は、そんなカタカナ語について、よくある使い方と起こりがちな問題をご紹介します。
同じ意味の日本語と重ねて使用されているケース
よくある問題の1つとして、日本語文では別々の言葉に見えても、英訳すると同じ言葉が繰り返しになっているケースがあります。
例1:「目指す姿」と「Vision」
例えば、中期経営計画では「当社は2030年に目指す姿として『VISION 2030』を新たに策定しました」という表現が見られます。この文章をそのまま英訳すると、「We have newly formulated "VISION 2030" as our vision for 2030.」となります。英語では「Vision」が「目指す姿」を意味するため、英語話者から見てこの英訳は「当社は2030年に目指す姿として『目指す姿 2030』を新たに策定しました」という、不自然な文章になります。
このように、日本語では自然に読める文章でも、英訳では意味の重複や不自然な表現を生んでしまうことがあります。
例2:「SDGs(SDG=Sustainable Development Goal)」と「目標」
似た例として、「SDGs(SDG=Sustainable Development Goal)」と「目標」があります。「当社の事業と関連する以下のSDGsの目標を設定した」という文章を逐語訳すると、「We have established the following SDGs goals relevant to our business.」となります。しかし 「SDGs」自体に「Goals」が含まれるため、「SDGs goals」は同じ単語が連続する不自然な表現になります。
この場合、原稿を書く際に、アルファベットの略語がどのような意味で使われているかを意識して使うことが大切です。もしこうした表現を避けられない場合でも、翻訳された英文に違和感がないか丁寧に確認することで、不自然な英語表現を避けることができます。
本来の英語とは違う、日本独自の意味で使用されているケース
ほかによく見られるのが、単語自体は英語の表現をそのまま使用していても、日本語独自の意味合いが追加されているケースです。
例1:「ナレッジ」
「ナレッジ」は、日本のビジネスシーンでは「組織にとって有益な知識・経験・事例・ノウハウ」といった、より実務的な意味合いで使用されます。ただ、英語圏では「知識・知見」を意味する単語であり、特定の用途・対象を示すニュアンスはありません。そのため、翻訳の際には単に「knowledge」と訳すのではなく、日本語での意図が十分に伝わるよう表現を工夫する必要があります。
例2:「コミット」
同じくビジネスシーンでよく使われる「コミット」も、日本では強い意気込みを示す表現として定着しています。
ですが、英語では「(目標達成等に)責任を持つ、誓う、約束する、(プロジェクト等に)全てをささげる、最大限の努力を投じる」と定義されており、取り組む姿勢だけではなく、結果に対する責任までを含む単語です。この単語を使用する際は、想定以上に重く伝わる可能性を考慮して用語を選択する必要があります。
言葉の定義が広く、文脈や背景によって意味が大きく変わるケース
最後にご紹介するのは、言葉の定義が広く、文脈や背景によって意味が大きく異なるケースです。これは、日本独自の造語や、定義の広い言葉によく見られます。
例1:「コミットメント経営」
「コミットメント経営」も、近年のビジネスシーンでよく用いられる言葉です。この単語は、大きく2つの解釈が存在します。
1つ目は、先程ご紹介した「コミット」に近い用法で、マネジメント層が強い覚悟と意志をもって経営に臨む姿勢を指すものです。2つ目は、組織と個人の強い信頼と結びつきを強め、一体感を高めることで業績向上を実現する経営スタイルという解釈です。このように複数の意味が読み取れる単語の場合は、日本語の時点で意味が明確に伝わる表現を選ぶことで、英訳時の誤訳の可能性を避けられます。
例2:「DX」
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」は、日本語では広く定着していますが、文脈や企業の背景によって、具体的に何を意味するか、解釈が分かれる単語でもあります。
英語では、「デジタル化」を意味する言葉が2つあります。「digitization」は紙媒体をデジタルデータに置き換えることで、「digitalization」はデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの確立や、既存ビジネスモデルの大きな変革を意味します。自社のDXを説明する際は、日本語・英語ともに「どのレベルの変革を指しているのか」が明確に伝わる表現を用いることが求められます。
言葉の便利さは、ときに誤解の温床になる
カタカナ語は短く、便利で、ビジネスの現場で重宝されています。しかし、その便利さの裏で、本来の意味から離れたり、文脈によって解釈が変わったりすることも事実です。
だからこそ、発信時には和英ともに「この表現はステークホルダーに意図したように伝わるか」を確認する姿勢が重要です。特に英訳では、文章を構成するテーマや背景、読み手へのメッセージなど、言葉の文脈をふまえた翻訳が求められます。逐語訳では拾いきれない意図を補完することで、適切な企業コミュニケーションを実現することができます。
ブレーンセンターでは、翻訳からコピーライティングまで、対象読者の視点に立ち、伝えるべき内容が確実に伝わる文章づくりを支援しています。海外、特に英語圏への情報発信や英語による企業コミュニケーションでお困りの際は、ぜひご相談ください。