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クライアント企業の情報開示、ブランディングの進化・深化を考える
ブレーンセンターの「視点」

Webサイトにおけるブランディングとは?企業ブランディングの要点とトレンドを解説

企業ブランディングは、ロゴや広告だけで語れるものではありません。企業の考え方や戦略、日々の取り組みが、Webサイトや広報活動、さまざまな接点を通じてブランドとして認識されていきます。「ブレーンセンターブランド研究室」では、企業ブランディングの基本的な考え方から、実践のポイント、最新の動向まで、実践に役立つ情報を発信していきます。

はじめに

本記事では、まず、企業ブランディングの要点を簡潔に紹介したうえで、コーポレートサイトがその軸となりうる存在であることを説明します。次に、コーポレートサイトにおけるブランディングのトレンドを4つのキーワードで整理し、お伝えします。現在の日本企業を取り巻く環境はVUCAそのもの。企業に期待される情報の種類は多様化・高度化し、更新サイクルも加速する中で、さまざまなトレンドを把握し、それに対応していくことが求められています。さらに、そうしたトレンドに対応しつつも、自社は何者かを明確化し、「らしさ(独自性)」を体験として届けることも重要です。後段では、押さえるべき「4つのトレンド」と、「らしさ」あふれるサイトづくりのポイントをお伝えします。

この記事で知ることができること

  • 企業ブランディングの要点
  • コーポレートサイトの4つのトレンド
  • その企業「らしさ」を表現するためのポイント

企業ブランディングの要点

企業ブランディングの目的は、単に知名度を高めたり、イメージを良く見せたりすることではありません。自社の理念や価値観、事業を通じて生み出している価値を一貫したかたちで示すことで、競争優位を確立し、価格や機能だけで比較される状態から脱却することが狙いです。こうした継続的な発信は、顧客や投資家、取引先、地域社会など、あらゆるステークホルダーとの信頼関係の構築にもつながります。信頼が積み重なることで、資金調達や協業の機会が広がるだけでなく、企業活動全体の安定性も高まっていきます。

また、明確なブランドを持つ企業は、採用面でも優位に立つことができます。企業の考え方や目指す姿が伝わることで、共感する人材が集まりやすくなり、入社後も「自分の仕事の意味」を実感しやすくなります。その結果、社員エンゲージメントや定着率の向上につながります。

さらに、顧客に対しても一貫した価値提供が可能となり、ブランドへの信頼や愛着が高まることで、リピーターの増加や口コミによる評価向上が期待できます。加えて、ブランド価値が企業活動の土台として共有されることで、マーケティングやPRの効率も高まります。発信するメッセージに一貫性が生まれ、広告や広報施策の効果が出やすくなると同時に、コミュニケーションコストの最適化にもつながります。

こうした好循環は短期的な成果にとどまらず、企業価値を中長期的に高め、持続的な成長を支える基盤となります。これらを総合的に踏まえれば、企業ブランディングとは、いわば企業としての「未来」をつくっていくための総合的なコミュニケーション戦略を立案し、実践することに他なりません。

まとめ:企業ブランディングのメリット

  1. 競争優位の確立と価格競争からの脱却
  2. 全ステークホルダーからの信頼獲得
  3. 採用力の強化と社員エンゲージメント向上
  4. 顧客ロイヤルティの強化
  5. マーケティング・PR活動の効率化
  6. 持続的な成長の基盤づくり=企業の未来づくり

Webはブランディングの中核的なツール

企業ブランディングを実践していくうえで、コーポレートサイトは中核的な役割を担います。近年、投資家、顧客、従業員、求職者、取引先、地域社会など、企業を評価・理解するステークホルダーは多様化しています。一方で、広告、SNS、広報活動、IR資料など、企業が発信する情報はチャネルごとに分散し、断片的に受け取られがちです。こうした状況において、多様なステークホルダーに向けた情報を集約し、企業の考え方や戦略、実績を体系的かつ一貫した文脈で提示できるコーポレートサイトの重要性は、ますます高まっています。コーポレートサイトは、誰に対しても同じ起点から企業の全体像を伝えることができます。

コーポレートサイトは、発信内容や表現を自社で主体的に設計・管理できる点も大きな特長です。SNSや外部メディアは拡散力に優れる一方で、情報の文脈が断片化しやすく、意図しない解釈が生じる可能性もあります。その点、コーポレートサイトでは、企業自らが設計した構造のもとで、理念や戦略、事業の全体像を正確に伝えることができます。

さらに、デジタル環境の進化により、コーポレートサイトは「作って終わり」の媒体ではなくなりました。社会環境や経営戦略の変化に応じて情報を更新し、改善を重ねながら発信し続けることが可能です。この継続的な情報開示と改善の姿勢そのものが、企業への信頼を高め、ブランド価値を支える重要な要素となっています。

その意味で、コーポレートサイトは、多様なステークホルダーをつなぎ、企業ブランディングを中長期で支える「軸」となりうるメディアと言えます。

まとめ:コーポレートサイトが企業ブランディングの軸になる理由

  1. 集約性:全ステークホルダーに網羅的な情報を一貫性ある形で発信できる
  2. 主体性: 自社で発信内容・表現を設計し、コントロールできる
  3. 更新性: 変化の激しい環境下で、時宜に応じて適切に追加・改善できる

コーポレートサイトの4つのトレンド

今、コーポレートサイトでのブランディングを考えるうえで押さえるべきポイントは、「サステナビリティ」「イノベーション」「ストーリー」「ピープル」の4つです。

これらは一過性の流行ではなく、企業を評価する視点や、企業と社会との関係性が変化する中で浮かび上がってきた重要なテーマです。その背景は大きく2つあります。

第一にあげられるのは、「中長期的な視点での企業評価」の定着です。PwCの調査※1によれば、投資家が短期的な業績指標だけでなく、企業が将来にわたって価値を創出し続けられるかどうかを重視していることが顕著に見てとれます。具体的には、71%の投資家が、ESG / サステナビリティを企業戦略に直接組み込むべきだと回答しており、気候変動への対応や持続可能なサプライチェーンの構築が、企業評価の前提条件になりつつあることが示されています。同時に、投資家はテクノロジーを通じたイノベーションにも強い期待を寄せています。同調査では、73%の投資家が企業はAIを導入すべきだと回答しており、AIによる生産性向上や収益性の改善、成長への寄与を中長期的な価値創造の重要な要素として捉えています。これは、サステナビリティとイノベーションの双方が、企業の将来性を評価するうえで不可欠な要素になっていることを示しています。

第二にあげられるのは、リアルでエモーショナルなコミュニケーションの重要性の高まりです。従来のような公式発表然とした形式的な発信では、若年層やSNSを見慣れたデジタルネイティブには響きにくくなっています。Z世代は、抽象的なスローガンよりも、事実や当事者の経験が伴う「本物らしさ」を基準に信頼を形成します。SNSマーケティング分野で世界的に利用されているSprout Socialの調査※2によれば、消費者は、お気に入りのブランドの背後にいる「人」についてもっと知りたいと考えており、消費者の70%が、ブランドのCEOがソーシャルメディアで積極的に発信している場合、より強い絆を感じると回答しています。

これら2つの背景から生じるトレンドは以下の4点に整理できます。

サステナビリティ:社会課題解決と価値創造

サステナビリティ活動は、社会課題の解決や、価値創造の実現に向けた企業戦略そのものとして捉えられるようになっています。コーポレートサイトにおいては、統合報告や非財務情報と連動しながら、社会課題にどのように向き合い、事業を通じてどのような価値を創出しているのかを可視化することが求められます。ESGに関する数値や方針を開示するだけでなく、その背景にある考え方や、事業活動とのつながりを示すことで、ステークホルダーは企業の持続可能性を立体的に理解できるようになります。また、一般の人をターゲットとしたオウンドメディアなどを通じて、社会課題解決やパーパスの実践取り組みを紹介し、共感やレピュテーション向上につなげていく動きも広がっています。

イノベーション:革新性と将来性

イノベーションに関しても、単なる研究開発成果や技術紹介にとどまらない発信が求められています。DXやAIの活用、人材育成を含む事業変革の取り組みを、どのような課題意識から始まり、どのような価値創造につながっているのかというプロセスとして伝えることが重要です。研究開発部門だけでなく、顧客との共創や事業モデルの進化を含めて語ることで、企業の変革力や将来性が具体的に伝わります。近年では、技術や事業を横断するブランド体系を整備し、企業としての革新性や方向性を分かりやすく示そうとする動きとして、新たな「事業ブランド」を策定する例も見られます。

ストーリー:一貫性と物語性

企業が掲げる理念・ビジョンから、組織戦略や個別事業の価値創造までを、一貫した物語としてつなぐことも、コーポレートサイトの重要な役割です。抽象的なスローガンに留まるのではなく、具体的な施策やリアルな取り組みと結びつけることで、ブランドとしての信頼性と納得感が高まります。また、社員や顧客の体験、プロジェクトの背景や試行錯誤を丁寧に掘り下げたストーリー型コンテンツも、企業理解を深めるうえで重要な役割を果たします。こうした物語性のある発信は、企業の価値観や判断の軸を、具体的な文脈の中で伝えることにつながります。

ピープル:人の想いと肉声

企業の「らしさ」は、最終的には人を通じて伝わります。経営者や社員の肉声、プロジェクトの現場、仕事に向き合う姿勢や意味を、臨場感をもって伝えることは、信頼や共感を築くうえで欠かせません。

記事だけでなく、動画やポッドキャストなど複数のメディアを活用し、多面的に経営者や社員の想いや肉声を伝えることで、企業文化や働く価値がよりリアルに伝わります。こうしたコンテンツは、採用やエンゲージメントの観点からも、企業ブランディングを支える重要な要素となっています。

これらのトレンドは、当社が500社以上に対して実施した、Webサイトのヒューリスティック調査にからも顕著に読み取ることができます。

その企業「らしさ」を表現するためのポイント

「サステナビリティ」「イノベーション」「ストーリー」「ピープル」はいずれも多くの企業が向き合っている共通テーマであり、表層的に追随するだけでは「どの企業も同じ」に見えてしまいます。だからこそ、これらのトレンドを自社の事業特性や歴史、価値観と照らし合わせながら整理し、何を語るのか、何を語らないのかを定めることが、「らしさ」を形づくる第一歩となります。その起点となるのが、企業のパーパスやビジョンです。自社が社会に対して果たしたい役割や、大切にしている判断基準を明確にし、それをすべてのコンテンツの拠り所とすることで、発信全体に一貫した方向性が生まれます。

そのうえで、「らしさ」を強く印象づけるためには、表現のレベルでの工夫が欠かせません。近年は、テキスト情報だけでなく、ビジュアルやインタラクションを含めたリッチコンテンツによって、企業の世界観そのものを体験させるアプローチが広がっています。スクロールに合わせて物語が展開する構成や、象徴的なモチーフを起点にした演出などを通じて、閲覧者が自然に企業の価値観やパーパスに没入できる設計が重視されています。こうした表現を通じて、他社との差別化と自社イメージの一貫性を備えた世界観が醸成されます。

また、こうした大きな世界観づくりにおいて忘れてはいけないのが、細部にまで「らしさ」を行き渡らせる「マイクロブランディング」の視点です。アイコンやアニメーション、UIの挙動、言葉づかいといった一つひとつの要素に企業らしい意味や意図を込めることで、サイト全体の一貫性と納得感が高まります。閲覧者は無意識のうちにそうした細部を通じて企業の姿勢や美意識を感じ取り、結果としてブランドへの理解と記憶が深まっていきます。

本シリーズの次回記事では、これら4つのトレンドや「らしさ」をうまく表現した事例を豊富にご紹介する予定です。ご期待ください。