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投資家向け広報(IR支援)

脱炭素に向けた日本企業の針路
―2050年カーボンニュートラル宣言をうけて―

法政大学 人間環境学部 教授
長谷川 直哉

掲載日:2020年12月11日

01脱炭素時代の到来が意味すること

2015年に持続可能な開発サミットで採択されたSDGsと、COP21で合意されたパリ協定は世界の価値観を変えようとしている。

パリ協定は温室効果ガス排出削減の長期目標として、産業革命前からの気温上昇を2℃より十分下回る水準に抑制するとともに、理想的には1.5℃未満に抑えるという目標を掲げている。この目標を達成するには、今世紀後半までに温室効果ガス排出量を実質ゼロまで引き下げる必要がある。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の試算によれば、CO2の累積排出量が3兆トンを超えると、地球の平均気温は2℃上昇する。人類は既に約2兆トンのCO2を排出しており、パリ協定を達成するにはCO2の累積排出量を約1兆トン以内に抑えなければならないというのである。社会経済システムの脱炭素化が進まなければ、約30年でCO2排出量は1兆トンに達すると予想されている。

地中に埋蔵されている化石燃料を掘り出して燃焼させた場合、排出されるCO2は約2兆8,600億トンと試算されている。パリ協定の2℃目標の達成に向けて許容されるCO2排出量1兆1,200億トンを差し引くと、残り約1兆7,400億トン相当の化石燃料は、もはや掘り出して使用することができないことになる。掘り出せない化石燃料は座礁資産と呼ばれており、資産内容が悪化することが予想される、石炭石油関連企業への投資を回避する動きが徐々に広がりを見せている。

ビジネスの脱炭素化が声高に求められる昨今、CO2排出量を削減しつつ経済成長を維持していく「デカップリング」やCO2排出量と営業利益を比較する「炭素利益率(ROC)」が注目されている。これらの指標で高い実績を示すには、化石燃料の消費やCO2の排出を抑制するだけではなく、ビジネスモデルの変革や新たなオポチュニティの獲得を通じて収益性を高めていくことが欠かせないのである。

機関投資家は投資指標として「自己資本利益率(ROE)」を重視しているが、脱炭素時代の企業価値は、「利益の量」と「利益の質」の両面から評価されなければならないだろう。20世紀後半、機能・品質・価格を磨くことで世界市場を席巻した日本企業は、大量生産・大量消費を前提とした資源エネルギー多消費型ビジネスを築き上げた。しかし、ビジネスのデカップリング化や炭素利益率の向上を加速させることが世界の共通認識となった今、日本企業には過去の成功体験から抜け出すことが求められているといえよう。

図1 パリ協定が許容するCO2排出量

出所:環境省の資料を基に筆者修正

Profile

法政大学 人間環境学部 教授
長谷川 直哉
1982年安田火災海上保険株式会社に入社し、資金証券部、株式部、財務企画部、損保ジャパンアセットマネジメント等において資産運用業務を担当。1999年エコファンド「ぶなの森」を開発。2002年早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士)、2005年横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士後期課程修了(経営学博士)。2006年山梨大学大学院准教授、2011年から現職。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。

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